House in magomezawa

所在地:千葉県船橋市

敷地面積:421.95㎡

延床面積:137.88㎡(建築面積:76.01㎡)

構造/規模:木造(一部鉄骨)/地上2階建

最高高さ/軒高:7.5m/7.4m

用途:専用住宅・書庫

建築:馬場兼伸

構造:新谷眞人/オーク構造設計、森部康司/昭和女子大

施工:株式会社金正

発注元:個人

設計施工期間:~2008

撮影: 井上登/新建築社

 

 

敷地は東京の郊外にあり、戦後間もなくからから20年ほど前まで旧家が建っていた。周辺は畑地や果樹園が無計画に宅地化され、日々移ろいゆく風景が広がっているが、ここには周囲の開発から取り残されたような敷地規模と植生がそのまま保たれていた。建主夫婦はリタイア後の生活をこの馴染み深い土地に帰還して過ごしたいと願い、過去の記憶を伴う膨大な量の持ち物を受け入れる空間のボリュームと、老後の暮らしにふさわしい身の丈サイズのコンパクトさを求めた。このような古くからの場所性を失っていく周辺環境の中にあり、前向きに意味とかたちを与えたいと思い、あるがままにそれが力強く現れるような与件の扱い方を意識した。

具体的には、建物を構成する屋根と壁を単純に分離し、全体として調整することなく個別に扱うこととした。壁はもち物の大半を占める蔵書を収める長さを確保しつつ、庭の樹木や草花との距離、また身の回りのもち物のレイアウトなどを近視眼的に検討することで、受動的に身に纏わりつく壁のようなかたちを導いた。一方で屋根は、小屋裏へ収めるもち物の体積と周囲の建物との距離をにらみつつ、俯瞰的に民家のようなアイコニックなフォルムを求めた。このふたつが重ね合わされると、そのずれが結果としてさまざまな深さの軒や、屋根からの飛び出したトップライトとして現れ、安定感と親密さの共存する外観となった。近景ではさまざまな表情見せるこの建物は、遠くから眺めるとどこか懐かしく、この場所の原風景と通じているような印象を受ける。下階は日常的に必要なものに囲まれた空間であり、一方小屋裏は日常時に必要ではないけれど、捨てることのできない過去の記憶を囲んだ空間である。その両者を人とものが行き来することで、生活に奥行きを生み出している。

強く完結するだけでもなく、眼前の与件に細やかに反応するだけでもない、両者が同居し、その矛盾が形式として顕在化するような建築に、今とこれからをつなぎ自ら新たなコンテクストの依り代となる可能性を感じている。